こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご 最終章

 

ロサンゼルス

 

 

大阪での公演が終わった後、 としこが声を掛けてきて、

 

「さっき明さんから電話があったの。

大阪に来てるそうよ。でも明日は午前に撮影があるので

今夜は東京に帰らないといけないのだけど、

食事をするぐらいの時間はあるから会って来て

いいよ。ライブハウスの外で待ってるって。

私達は新大阪駅で待ってるから」

 

「そうなの。ありがとう」

 

明と二人で食事をしてゆっくりと話せるレストランを見つけて
入った。


「ちょっと大阪に用事があって来たんだけど、早く終わったので
りんごの歌を聴きたくなったから」

「そうなの。大阪に来たのはお仕事の為、それとともりんごが

お目当て?」

 

明は頭をかくと、
「それは、お目当てはりんご」

りんごは嬉しそうに笑った。

「正直でよろしい。ねぇねぇ、もう知ってると思うけど、
私の卒コンの前に、アメリカ公演が決まったの!」

 

「うん。先週発表になったね。ロサンゼルス公演。
メンバーと良い想い出が作れると良いね」

「うん!最後にメンバーの皆とアメリカ公演が出来るなんて
最高に嬉しいな」

 

明はワインでりんごと乾杯をして、ひと口呑んだ後、

「その、メンバーだけでなく、二人の想い出も作りたいのだけど」

りんごは首をかしげて、
「二人の想い出って?」

 

「実は、ロスには友人がいてね。仕事の付き合いのアメリカ人

だけどとても良い奴でね。何度か渡米して世話になってる」

 

りんごはうなずいた。

「それでその彼に電話をして詳しい事を話したのだけど、
りんごと結婚する事になったと」

 

りんごは手を止めて明を見た。

「それで、彼の尽力のおかげでロスの教会で式を挙げる事が

出来そうなのでりんごの意見を聴きたいのだけど」

 

りんごは口を開けたまま目を丸くして明を見た。

「それに、式はアメリカの教会でするのだから内輪だけの、
双方の家族と、そして出来たら公演が終わった後で

メンバー達も出席して貰いたいのだけど」 

 

りんごは、口をぽかんと開けたままだ。

「どう思う?もちろんりんごの意見が最優先だからね。
まだ決めたわけでは無いし」

 

  りんごは立ち上がり、明の背後に回り首に抱きつくと、

「家族とメンバーだけの結婚式、そして教会での挙式。

それもロサンゼルスでなんて最高よ!」

 

食事が終わり、としこ達が待つ新大阪駅に向かう。

 

としこを見つけるとりんごは、足を止めた明を置いて
としこに近づいて興奮した様子で喋っている。

としこは、明の方を見ると大きくうなずいた。

 

 

そしてりんごは明の方へ小走りに来ると、

身長差がずいぶんあるので明の腰の辺りに

強く抱きついてくる。

少しの間抱きついていたりんごは、ぱっと離れると
メンバー達が待つ方へ走り去って行った。

 

 

ウエディングドレス

りんごはツアーライブやリハ、リリイベ、握手会、などが
立て込んでいてほとんど休みが取れない状態で、
アメリカライブと教会での式が数週間後に迫っていたが、
未だにウエディングドレスをどれにするか
決まって無かった。

りんごは、毎日寝る前に明と電話で話していたが、
明がネットでドレスを見て決めたらどうだと言われて
そうする事にした。

明がりんごのスマホに次々にウエディングドレスのアプリの

画像を送ってくれて、りんごはそれらのドレスを選んでいた。

 

「ねえ、りんごはウエディングドレスを着て、

お父さんにエスコートされてヴァージンロードを

歩いて行くんだ」

「そうだね」

「でも、ヴァージンロードを歩く花嫁さんは、
たいていもうヴァージンじゃ無いのね」

明は笑って、

「それを言い出したらほとんどの花嫁はヴァージンロードを

歩けない事になるよ」

「・・・りんごはヴァージンロードを歩く資格が

あるのかな」

明は少し考えて、

「ヴァージンロードを歩く意味は、
どんな過去も一新して純粋な気持ちで新しく旅立ちをする。

という意味だと思うな。俺の出会った人で、

りんごが一番純粋な女の子だと思うな。

胸を張って俺の所へ来ればいい」

「ありがとう」

 

明はまた次々とウエディングドレスの画像を送って来る。

「わたし、体が小さい方でしょ、引きずるような長いドレス
では無くて、ミニドレスみたいなのがいいな」

それではと、明はミニドレスを選んで送ってくる。

そのミニドレスを見て、りんごは思わず声を上げた。
「あっ!このドレスが良いわ。これが気に入った!」

「お気に入りのが見つかったようだね。じゃあ

このウエディングドレスを注文するよ」

 

そして渡米する日がやって来た。



 Theatre

公演の前日、ロサンゼルスの1930年代に建てられたという
素晴らしい会場でメンバーはリハーサルを行っていた。

午前のリハが終わり、通し稽古は午後に行う事になり、
としこ以外のメンバーは休憩のため、いったん
ホテルに戻った。

残ったとしことコンサートディレクターは、ライブの
進行について打ち合わせをしている時だった。

二人の男性が会場に入って来た、一人は制服の警官だった。
もう一人はコートの年配の男性で警察官らしい。
通訳の方がその年配の人の話を聴いている。

通訳が二人を連れて来た。

「こちらはロス市警のジェラード警部だそうです」

としことディレクターは顔を見合わせた。
突然の警察官の訪問に何事かと不安にかられた。

やや頭が薄くなり痩せて鋭い眼をしたジェラード警部は
重々しく喋り始めた。

としこには「Cancel」という単語だけを聴き取れた。

 

 

ロサンゼルスへ渡米する数日前に、りんごと明の教会での結婚式の段取りがようやく決まった。

ロサンゼルスライブの後に二人の教会での式にメンバーも
出席する事は、何とか事務所の了解を得られた。
ただし、スケジュールの都合で式はライブ当日の午前に
行われる事になり、それが終わってライブは夕方から
始まる事になる。

その前にちょっとした問題が起きた。
りんごをヴァージンロードでのエスコート役の父親が
持病の膝痛が悪化して歩くにも難儀となり、
エスコート役を辞退する事になったのだ。

父は代わりに母親にやってくれと頼んだのだけど、母は、
初めての事だしそんな大切な役目はとても自信が無いと
断ったのだ。

それでりんごは明に相談した。

「ヴァージンロードのエスコート役は誰でも良いらしいよ。
例えば花嫁の友人がやった例もあるようだしね。
どうしても適当な人がいなかったら、花婿が花嫁を
エスコートする場合もあるようだし、俺がやってもいいよ」

りんごはじっと考えてから、
「やはり、明さんにはヴァージンロードでエスコートされる
りんごを待っていて欲しいな」
「わかった。りんごの言う通りにするよ」

りんごは居住まいを正すと、

「今、りんごには家族以外で愛する人が二人居るの。
一人は明さんよ」

明はうなずいた。

「もう一はりんごにとって一番大切な、愛してる人・・・」

「わかった。としこさんだね」

りんごは大きくうなずいた。

「とても良い考えだね。もしとしこさんがいなかったら、
俺たちは結婚出来なかったかもしれないよ」

りんごはすぐにとしこに電話を掛けた。
としこは驚いて、

「ダメよ!そんな大事な役目を私なんかが出来ないわ」
「お願い。お父さんもお母さんも出来ないし、としこしかいないのよ」
「でも・・・」

りんごは明にスマホを渡して出て貰う。

「何とか、エスコート役を承知して欲しいな。
りんごは、としこさんの事をとっても愛してるそうだよ。
そして・・・俺もとしこさんを愛してる。りんご同様に」

「りんごと同じくらいに?じゃあその証拠を言って」
「証拠って?」

「もしりんごと出会わなかったら、私と結婚してくれた?」

明は思わずスマホを押えてりんごの顔を見た。
りんごはそれが聞こえたのかどうか、うなずいてみせる。

「・・・もしりんごと出会わなかったら、するよ」


「ありがとう。嬉しいな。じゃあその時はヴァージンロードの
エスコート役は、りんごにやって貰うわ」

明も思わず大きな声を出して笑いながら、

「それはいいね」

 

りんごが顔を近づけてきて、
「ねぇねぇ、何がそんなにおかしいの?」

「後で話してあげるよ」
としこに、
「じゃあ、OKだね」

「はい。私でよかったら」

「ありがとう。でも、としこさんが本当に結婚したい人は、」
言いかけたが、止めた。

「・・・・」

明はスマホを切ると、
りんごを強く抱きしめた。

そして、りんごと明は家族、メンバーと共に渡米した。
何かが待ち受けている、ロサンゼルスへ。

 

爆破予告


ジェラード警部の言葉を通訳は、

「今朝市警に電話で爆破予告の通告があったそうです」

ディレクターは眼を剥いて、
爆破予告ですか?!この会場をですか!」

 

「間違いなくこのシアターに時限爆弾を仕掛けたという
爆破予告があったそうです。だから、明日午後に予定されている
コンサートを中止するようにと言っています」

「これは過激派のテロですか?!」

アメリカでは、銃撃によるテロで多数の死者が出る事件が
多発していますが、爆弾によるテロも過去にオリンピックや、
ラソンの会場、地下鉄などで多数の人が集まる場所での
爆弾テロで多くの死傷者が出ています」

 

すぐさま、この会場は封鎖され爆弾処理班を含む多数の警官に
よって時限爆弾の捜索が行われ、
公演の関係者スタッフは、終わるまで外に退避させられた。

 

マネージャーは日本の事務所に連絡を取り、
としこも、ホテルにいるメンバー達には爆弾の事は伏せて
通し稽古は遅れるからホテルで待機してるようにと連絡する。

としこは、突然降って湧いたような出来事に混乱して
ただただ公演が中止されるかもしれない事に
不安と心配でいっぱいだった。


ようやく爆弾の捜索が終了したのは、夕方近くなってからだった。

ジェラード警部が公演のスタッフ達を集めると、

 

「時限爆弾は見つかりませんでした。会場内くまなく捜索しましたが、見つかりませんでした。
しかし、安心は出来ません。爆弾はこれから仕掛けられるかもしれない。これからやれる事はひとつしか無い。ライブ公演を中止する事です」

 

としこはマネージャーに聞いた、
「もし公演が中止になったら、もうロスでは出来ないのですか?」

マネージャーはうなずくと、
「ロス公演は一度だけだ。スケジュール的にこのまま
帰国するしか無い」

マネージャーは日本の事務所に捜索の結果と、ジェラード警部の
言うように中止するのかその判断をどうするか、
再度を連絡を取った。


やがてマネージャーは戻って来ると、
「日本の事務所は、捜索の結果爆弾が見つからなかったという事は
いたずら目的の爆破予告も考えられるという事で、
公演は出来うるならば、予定通り行いたい。
この公演を楽しみにしているアメリカのファンも
たくさんいるのだから。との事でした」

 

ジェラード警部は、厳しい眼でマネージャーを睨むと、
「もし、このシアターで爆発が起これば、多数のアメリカ人の
ファンが犠牲になり」
警部はとしこを見ると、

「このライブ公演の演者は年若い少女達と聞いたが、
その女の子達をも犠牲にするつもりなのかな・・・」

 

としこは、口を開いた。

「公演が卑劣な爆破予告によって中止せざるをえないのは、
非常な悲しみであり、つらい事です。しかし、
最優先しなくてはいけないのは、アメリカのファンの
安全を第一に考えなくてはいけないと思います。
少しでも危険な事があるのなら、この公演は、
やれないと思います」

ジェラード警部はそのとしこの言葉を聴いて
大きくうなずいた。

 

黙って聞いていたマネージャーは口を開くと、

「その点について日本の事務所の責任者の考えは、
公演は明日の午後とまだ少し時間があり、
それまで再度爆弾の捜索と予告犯の捜査をギリギリまで
行って貰い、爆弾の発見や予告犯の特定がなされたら、
公演は中止します。
爆弾が見つからなく、犯人も特定出来ないならば、
いたずらの可能性がありとして、公演を行いたい。
という事でした」

ジェラード警部はそれを聞いてじっと腕組みをして
眼を閉じて考え込んでいた。

「もちろん、会場の内外を警察によって厳重な警備体制
敷いて欲しい。との事でした」

ジェラード警部はギロリと眼を開けると、

「よろしい。爆弾の再捜索と公演が始まるまでの厳戒体制と
犯人の捜査を、全力で行う事をを約束しましょう。
それで安全と判断出来れば、公演を許可します」

 

マネージャーはほっとしたような表情を見せた。
ジェラード警部は厳しい表情でつけ加えた。

「しかし、少しでも危険な兆候が見つかれば、
ただちに公演の中止を勧告します。いや、勧告では無い、
Command!命令です」

ホテルのメンバー達には通し稽古は今夜は無理で、
明日早朝に行うと伝える。

マネージャーはジェラード警部の返事を事務所に
伝えるために行った。

 
明はロスの友人と夕食を共にしていた。
明日の結婚式が終わった後はりんごのライブがあるけれど、
出来たら新妻のライブを観たいけど、色々予定があって
観に行けないなと思っていた。

そのアメリカ人の友人は食事の手を置くと、

「ちょっと気になる事があるのだけど」
「なんだい?気になる事って?」

「新聞記者の友人なんだけど、さっき電話で話した時、
あるシアターの前を車で通ったら劇場の前に
パトカーが何台も止まっていて、大勢警官が出入りしてるんだ。
不審に思ってシアターに入ろうとしたら警官に入れないと
止められたと言うんだ。君のフィアンセはロスには
結婚式の他に劇場でライブをしに来たと言ってたよね」

彼はそのシアターの名前を言った。その名前は聞いた事があった。

ただちにとしこに連絡を入れる。
幸いとしこはすぐに出た。

友人の話を言うと、
としこは、少し言いよどんでいたが、
「すみません。今は何も言えないんです。
たとえ明さんでも・・・」

明は背筋が冷たくなるのを感じた。
何か異様な事が起きてる。あるいは起きかかってる。

「明日の式が終わっての公演だけど、観に行きたいのだけど」

「ダメです!」

としこの鋭い言葉に、嫌な予感がして、

「いや、どうしても観に行きたいんだ。せめて会場にでも
入りたいのだけど・・・」

としこはしばらく黙っていたが、
「もしあなたの身に万一の事が起きれば、りんごが悲しむわ」

明は声を上げて、
「いや、りんごを絶対に悲しませない!それに、
りんごの身に万一の事が起きた時、その場におれなかったら
俺は死ぬよりつらい」

としこは吐息をつくと、
「わかりました。関係者席に入れるように頼んでみます」

 

Bomb

ジェラード警部達は再度シアターの爆弾の捜索を
念入りに行ったが、爆弾は発見されなかった。

午前0時頃になって、警部達は徹夜で警備をする警官らを残して
いったん市警へ戻った。

マネージャーも心身とも疲労困憊した風で、
ホテルへ戻る事になり、としこに、

「さあ、帰ろう。明日は早朝から通し稽古がある。
少しでも寝とかないと」

としこは首を振った。
「私は残ります。とてもホテルで寝ていられません」

マネージャーは呆れたようにとしこを見たが、
諦めてとしこを残して出て行った。


ひとりになると、としこはステージに立って観客席を見た。
前部にスタンディングのスペースがあるが、その後ろに
座席が並んでいる。

降りて行き座席のひとつに腰を下ろした。
明日の事を考えていた。
何としても明日の公演をやり遂げたい。それだけを願った。

もちろん、メンバーの無事と客席のファンの安全が

最優先なのだけど。

その前にりんごの結婚式が教会である。
結婚式が公演の前に行われるのがせめてもの救いの
ような気がした。

ふとジェラード警部達の座席の捜索の様子を思い出した、

ここの座席は、日本の会場のように座る部分が上がらないで
最初から下がったままだった。

だから捜索の様子は懐中電灯で座席の足元を照らして
見ていた。
としこはふと思った座席の下、裏側の部分はどうだろう、
もし爆弾を座席の裏側に貼付けたらとしたら、
見逃される事があるかもしれない。

としこは立ち上がり通路側の席から座席の裏側に
手を差し込み触って確かめて行った。
一列を終り、後ろの席が千席以上あるのを見て、
一人でやるには大変な事だと思ったが、
たとえ朝までかかったとしてもやらなくてはいけないと
感じた。

 

端から五番目の座席の裏側に手を差し込んだ時、

それがあった。何かが指に触れた。

 

全身が「総毛立つ」という意味を文字通り肌で感じた。
同時に心臓の鼓動が驚くほど高く全身に響くように聞こえる。

爆弾。だと思った。

すぐに思ったのは、それが爆弾だとしたら明日の公演は
中止だと言う事だった。
思わず引っ込めた手をもう一度そろそろと伸ばして
触ってみた。

そんなに大きく無く、厚くも無く角ばった感じだった。
テープのような物で貼り付けてるようだった。

それを取り外して外へ捨てに行く事を考えた。
誰にも知られずに。

でも、いったいこの何も知らないロサンゼルスの何処に
捨てるというのだろう。
もし途中で爆発したら、自分ひとり死ぬだけではすまない。

頭を強く振ってその考えを振り払い、立ち上がり外の警備の
警官に知らせに行く。

知らせると言っても、頭が真っ白になっていて、
ただでさえ英語は苦手なのに、「座席」という単語が
わからない。
何とか身振り手振りで懸命を伝えようとした、
そして、爆弾をボンバーと思い出し、

座った身振りをして、お尻に手をやって
「ボンバー」と言った。

ようやく警官はその意味がわかったようで、
すぐにパトカーの無線でジェラード警部に連絡をとった。

少しして、何台ものパトカーがサイレンを鳴らしながら
到着した。そしてパトカーとは違う小型のバスのような
車から、まるで宇宙飛行士ような格好の二人が降りて来た。

爆弾処理班のようだった。

 

ジェラード警部がやって来て、
興奮した面持ちで早口で喋り出したが、としこには
ひと言もわからない。
通訳の人が飛んできたので、
としこは深呼吸した後、座席の裏側に手を差し込んで調べたら
何かが貼り付けてあったと説明した。

そしてその座席の位置を正確に知らせた。

 

ジェラード警部は、すぐさま部下の警官に指示をする。

「この前の道路一帯を封鎖して通行する車、歩行者らを
通行禁止にしろ!それとシアターのまわり半径
五百メートル以内の建物の住人を叩き起こして安全な
場所に避難させろ!そしてシアター内の人間を残らず
外に避難させるんだ」

防護服の爆弾処理班がシアターに入って行った。

としこはシアターから離れた外に避難したが、
夜ともなると外に居ると体が小刻みに震えるほどの
寒さだった。

そしてホテルのマネージャーに連絡する。
マネージャーは眠そうな声で返事をした。
寝入ったばかりのようだった。

としこが事の次第を話すと、息をのんで聞いている。
すぐに来ると言った。
外が寒いので自分のパーカーと毛布を持ってきて欲しいと
お願いする。

振り返ってシアターの方を見ると、
雲が切れて月明かりにシアターの高い建物が浮かび上がっていた。

 

 

アイドル

 としこが外の寒さに震えていると、
ジェラード警部がやって来て、
ポリス用のジャケットを持って来て着せてくれた。
とても暖かくて、警部の優しさに胸がいっぱいになって
何度も頭を下げた。

 

シアター内の爆弾処理には時間がかかっているようだった。
まだ爆弾とはわからないようだけど。

警部はとしこに、ゆっくりとした話し方で、

ひたすら爆弾処理が終わるのを待つしかなかった。

警部が着せてくれたポリスジャケットのおかげで

寒さは感じなかった。

 

ようやく、

シアターから宇宙飛行士のような装備の爆弾処理班が
出て来るのが見えた。

腕時計を見ると、午前4時頃だった。
警部達が到着してから、約三時間以上が立っていた。

 

警部は処理班と話していたが、それから帰り際に
マネージャーと、としこに言った。

「分解して処理した結果、あれは単なるスマートフォンだった」

 

としこは心から安堵して、
「そうでしたか・・・でも、なんでスマホを座席の裏に?」

ジェラード警部は、わからないという風に首を振った。

としこは、あれを発見した時の事を思い出した、
その時は爆弾だという恐怖で何も考えられなかったけど、
今思えば触った時何だか、なじみがある手触りだと思えた。
スマホなら手になじみがあるはずだった。
それを警部に言うと、警部は、

 

「いや、たとえなじみのあるスマホに見えたとしても
安全とは限らない。今はライターぐらいの小さい爆弾でも
このシアターのように密閉された観客席でもし爆発したら
数百人の死傷者が出るくらいの威力のある高性能の爆弾が
あるのだから油断は出来ない」

それを聞いてとしこは改めて恐怖を感じた。

としこは暖かったポリスジャケットを脱ぐと警部に丁寧に
お礼を言って返した。

ジェラード警部はうなずいて受け取ると
パトカーに乗り込んで走り去って行った。

 

その後、マネージャーはとしこにパーカーと毛布を渡すと、
「もうホテルへは帰る時間も無いし、ここに籠城するよ」

としこはシアターの中に入り、あのスマホが貼り付けてあった
座席の所に行ってみる。

 

あのスマホが貼り付けてあった座席のあった場所は、

前後左右の座席が何台も外されて脇に置かれていたので

ポッカリと円形に開いてるように見えた。

置かれた座席の一つは、復元出来ないほどに

バラバラに分解切断されている。あの座席に違いない。

 

爆弾処理班は、まわりの座席を取り外した後に、

あの座席を慎重にたっぷりと時間をかけて
バラバラに分解切断したのだと思った。
その後、スマホも同じく分解したようだ。

 入場がが始まって、あの座席番号のチケットを持ったファンが、
自分の座席が完全に無くなっているの知って驚くだろうなと思う。

 

 

夜が明けて、早朝の通し稽古のためりんごはまだ暗いうちに

シアターにやって来たが、灯りが点いた舞台でとしこが

柔軟体操をしてるので、

「なんでもう来てるの?りんごが一番だと思ったのに」

としこは答えないで体操を続ける。

 

「ねえ、まるでゾンビみたいな顔してるよ」

としこは苦笑して、

「なにがゾンビよ、あまり寝れなかったからね。

大丈夫、化粧すればゾンビも美女に変身するよ」

 

通し稽古が終わり、メンバー達はホテルへ戻り

着換えてから教会へ向かう。りんごは準備のためひと足先に

向かっていた。

 

教会に着いてとしこは、花嫁の控室へ行ってみる。

りんごはウェンディングドレスで腰かけて鏡を見ていた。
としこに気がついて見上げる。

「綺麗だよ、りんご。最高に綺麗」

「あんがと」

「卒業。っていう映画を知ってる?」

「知らない。どんな映画?」

「式の最中教会に男がやって来て、花嫁を盗み出して

一緒に逃げちゃうの」

 

「へぇ~それで」

「だから、逃げようか」

「へ?」

「わたしとりんごで一緒に逃げよっか」

 

りんごはとしこをまじまじと見て、

「としことなら一緒に逃げてもいいよ」

としこは、グーでりんごの頭をコツンと叩いた。

「バカヤロー」

 

りんごは頬を膨らまして、
「何だよー、言い出したのはとしこなのに」

「言ってみただけ。乗ってくるとは思わんかった」

 

時間が来たので、二人はヴァージンロードへ向かう。

二人はヴァージンロードを腕を組んで歩いた。

 

「りんご、愛してるわ」

「わたしも、愛してるよ」

「二番目にね。ほら一番愛してる人が待ってるよ」

 

スマホの持ち主


開演前にとしこは、警備の警官と話しているジェラード警部を見て
駆け寄ると、頭を下げてお礼を言った。

警部は通訳を呼んでくれた。

「ありがとうございました。警部さん達のおかげでこうやって
公演が出来るようになりました」

警部は首を振ると
「いや、私達は任務を遂行しただけです。あなた達の
公演への情熱と努力によって公演が行える事になったのです。

まだ終わってないですよ。公演中は観客席の様子を見て、
少しでもおかしな様子を感じたら、歌っている最中でも
ただちに私達に連絡してください」

「わかりました。ステージの上から気をつけて見ています」

警部はうなずきながら、
「あのスマホの持主がわかりましたよ」

「そうなんですか!」

「分解したスマホを組み立て直す事が出来て
持主に連絡が取れたのです。彼は座席の裏にスマホ
貼り付けた理由を話してくれました」

「いったいどんな理由で?」

「2、3日前にあのシアターのライブに、彼女と二人で
観に行ったそうで、そこで彼女と言い争いになって、
彼女は大変嫉妬深い女性で彼が浮気をしていると
責め立てて喧嘩になったそうです」

「・・・それで」

「それで浮気してないという証拠に、彼のスマホを見せろ。
という事になり、それで見せるからホールへ行こうと事になり、
先に彼女を行かせて、その隙にとっさにテープを持っていたので
自分のスマホを座席の裏に貼り付けて隠したそうです」

「はああ・・・」

「それで、スマホは家に忘れて来たと何とか言い訳して
難を逃れたわけという事で」

「そうでしたか、それで?」

「それで、彼に言ってやりました。

女の嫉妬は、爆弾よりも恐ろしい。

これからは浮気を止めるように。と」

それを聞いて通訳の人は笑ったが、

としこは、スマホを見つけた時の恐怖を思い出し笑えなかった。

 

 開演30分前に、としこはメンバー全員を集めて、
会場に爆弾を仕掛けたという爆破予告があった事を

打ち明けた。

 

「ロス市警の警部さん達のおかげで、こうやって
ライブを行える事になりました。
でもまだ絶対安全とは言えないの。何時爆発が起きるかも
しれないの。だから」

としこは年下の2人、ららと乃乃実を見て、
「だから、あなた二人には出来たら、この舞台に

立たせたくないの・・・」

 

すると、ららが憤然としてとしこを睨むと、
「嫌です!!私達はメンバーの一員なんです。ここまで来て、
舞台に立てないなんて、絶対に嫌です!」

そう言ってららは隣の乃乃実を見た、

乃乃実は大きくうなずいて、そして冷静に言った。

「わたしも同じ気持ちです。ここで舞台に立てないなんて、
死んでも嫌です」

としこは二人の所へいき、抱きしめた。

「わかった。もう言わないよ」

 

そして振り返ると、りんごを見た。

りんごは、ららより怖い顔をしてとしこを睨みつける。

としこが口を開きかけると、
「言わないで!その先を言わないで」

としこはかまわず、
「あなたは、今日結婚式を挙げたのよ。
彼と永遠の愛を誓ったばかりなのよ・・・」

りんごはとしこに近づくと、力の限り抱きしめて、
耳元で言った、

「言わないでって言ったでしょ、

りんごはまだメンバーの一員なのよ。

りんごを外すってぬかしたら、ころすよ」

としこは、りんごの瞳を見詰めた。

「だってさ、彼、旦那さんが観に来てるのよ。
良いところを見せたいじゃない。ね?」
そう言って笑顔を見せる。

 

少し前、楽屋に明が挨拶に来たのだ。

 

としこも、ふっと微笑むと、

「仕方ないわね」

りんごはメンバーに振り返ると、

「さあ!時間だよ。今日もいっちょうやろうじゃない」

メンバーは円陣を組み、
としこの出した手の甲に名前を言いながら掌を重ねていく。

としこは顔を上げて、

「私達は、生まれた時は皆別々だったけど、
だけど、だけど・・・」

としこはその先を言えなかった。

メンバーは腕を上げ、歓声を上げて仕上げた。

そして肩を組んで舞台へ向かう。


りんごはとしこと肩を組むと、としこの耳に口を付けてささやいた。

「生まれた時は別々だけど、死ぬ時は一緒だよ」


そして音楽が鳴り始めた。

 

すべて終り、りんごは最後に引き上げてくる

としこに飛びつくように抱きついた。

しばらく抱き合っていたりんごは、

としこの耳に口をつけると、ささやいた。

 

「としこ、あなたも卒業するつもりね」

としこは、りんごの腰に手をまわして、

他のメンバーから離れた所に連れてゆくと、

「りんごには隠せないわね。

この公演は、ファンとメンバーの安全を考えたら

中止すべきだったのよ。それが出来なかったのは

リーダーとして責任を果たしたとは、言えないわ」

 

「そんな事無いわ。マネージャーさんから聞いたわ。

昨夜は会場で一睡もしないで舞台を守り抜いたのよ」

としこは首を振った。

「でもすぐには辞めないわ。りんごとわたしが、

いっぺんにいなくなれば残ったメンバーに負担がかかるわ。

来年早々に卒業するつもり」

りんごを見ると、涙を流していた。

もう一度りんごを強く抱きしめると、

 

「メンバー全員を愛してるわ。でも、りんごが

いなくなったグループに未練は無いわ」

 

「ねえ、としこもりんごと一緒に明さんの所で

三人で一緒に暮らせれば良いのに」

 

としこはりんごの頭をグーでコツンと叩いた。

「あ痛!」

「バカヤロ。そんな事出来るか!

それなら、もし明さんと別れたら私と結婚してくれる?」

りんごはうなずいて、

「うん。別れたらね」

 

「でも、別れないか」 「うん」

アハハハと、としこは笑った。

 

 

りんご 完

 

 

 (ネタばれして申し訳ないけど、後に

りんごは明と別れてしまいます。

そしてとしこと・・・・)

セーラームーン

石田、稲場のウェーブ

このウェーブって、ドルフィンとも言われる
あれだよね。ドルフィンで思い出すのは、
娘。オリメンの福田明日香さんが
上手かった印象がある。