こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

元禄の楓 最終話 四

本郷のお屋敷

 しばらくして、お寺に玲奈が戻って来た。
なんだかしょんぼりしている

「どうかしたのかい?」

「あのね、居酒屋の隣のお店が地震で火事を出したみたい。
居酒屋はまきぞえを食って半焼だって。
大将もがっくりしていたよ。当分の間お店は閉めるって」

「それは大将もとんだ災難だったね」

玲奈は座り込むと、
「だから、しばらく動けないよ。あんなつぶれそうな
長屋には戻る気がしないし」

楓は玲奈の肩に優しく触れると、
「大丈夫。玲奈の住む家ぐらい私が何とかするから」

その時外に出ていた寺の住職が戻ってきた。
楓が声を掛けると、
「よぉ~楓さん、貸布団屋に行って来たよ。
古布団だけど、あるだけの布団を全部借りると
注文してきたよ。夜までに持って来るとさ」

「そうかい。ありがとう」

楓は懐を探ると、じゃらんと小判を何枚か取り出し
住職に握らせる。

住職は何枚もの小判に目を丸くして、
「えっ、こんな大金をめっそうも無い、一両も
あれば十分だよ」

楓は住職が返そうとする小判を押し返し、
住職を皆から離れた所に連れて行くと、

「いいから、全部取っといておくれ。
実は・・・明日にもちょいと遠くへ行くのだけど、
本当ならとっくに出てるはずなのに、この地震
影響で遅れたの」

「そうかい。それなら足りない分は帰った時
貰うから大丈夫さ」

すると楓は言葉をにごして、
「その、いつ帰れるかわからないの。もしかすると
もう江戸には戻れないかも・・・」

その言葉に住職が茫然としてる時、

北町同心の広瀬が様子を見に来たのか境内に
入って来た。

広瀬は、
「楓さん、やはり此処だったか。女達が見当たらないので
もしかしたらこのお寺かと思って来てみたんだけど」

楓は、居ずまいをただすと、
「いい所に来てくれました。広瀬様、お願いの儀が
ございます。少しの間お時間を頂いてもよろしいでしょうか」

その言葉に広瀬はじっと楓を見ていたが、
「わかった。大事な話があるんだろう。何でも聞くよ」

楓は、ありがとうございます。と頭を下げると、
振り返って、女達に声を掛けた。

「みんな!私はこれから出かける所があるけれど、
もうすぐ布団が届くから当分の間このお寺で
寝泊まりしておくれ。何か不自由な事があれば、
住職に言っておくれ。力になってくれるから」

住職は大きく振りかぶってうなずいた。

それから文乃に近づいて、
「文乃。皆を頼んだよ。お前様を一番頼りにしてるよ」
そして声をひそめて、
「もう、明日からは私はいないと思っておくれ・・・」

文乃はその意味がわかって、悲しそうになって、

「楓さん。わかりました。このご恩は生涯
忘れません。ありがとうございます」
その瞳から一筋の涙が流れた。

楓は声を張り上げると、
「みんな!私は行くよ。もし町に出ていてひもじくなったら
本郷の大きなお屋敷で、明日明後日まで炊き出しをしているから
そちらへ遠慮なく行っておくれ」

広瀬は、本郷の大きなお屋敷。と言えば加賀藩江戸屋敷
だなと思った。

楓は玲奈の手を取って立たせた。

広瀬が、
「じゃあ、これからなじみの蕎麦屋の二階で話を
聞こう。あそこなら誰にも邪魔されないから」
そう言って歩き出す。

楓はうなずいて玲奈の手をつないで歩き出した。

後ろで文乃が泣き崩れそのまわりを女達が囲んでいた。

続く。