仙台 公演・だーさく
だーさく キス
朝日を感じてさくらは飛び起きた。
時計を見て思わず悲鳴を上げる。
駅での集合に遅れそうな時間になってる!
隣の亜佑美はまだ寝ている。
「亜佑美さんーーーーーーーー起きてぇー!?」
起きないので、布団を跳ね飛ばして叩き起こす!
ふと気がつくと二人とも、裸のまま。
引き出しから二人分の下着を引っ張り出し、
起き出した亜佑美に下着を投げつけるように渡し、
「早くパンツを穿いて!それからすぐに顔を洗って!」
顔を洗って亜佑美が、
「朝ごはんは~?」
「作る時間も食べる時間もないーーーーー!」
朝食用の食パンがあったと見ると四枚ある。
魚焼き器にパンを押し込む。夕食の残りのポテトサラダが
あるのでパンにはさんで電車の中で食べればいい。
パンが焼ける間に手早く化粧をする。
東京駅まで西武線、中央線、山手線と乗り換えないと
いけないのにとても間に合いそうに無い。
東京駅までタクシーを使うしかない。
スマホでタクシー会社に電話して来て貰う事にする。
アイドルなんだから酷い顔で乗れない。
ふと亜佑美を見ると下着のままぼ~として座り込んでるだけ。
「亜佑美さん!!もう化粧はいいから服を着てください!」
「・・・行きたく無い」
さくらは思わず化粧水の瓶を落としてしまう。
「はあああ~ぁ?!ってどういう事ですかあ!?」
「公演に行きたくない。今日は一日お家に居たい」
「な、何にを言うんですか、今日は仙台公演なんですよ。
年に一度の亜佑美さんの凱旋公演じゃないですか!」
「でも今日は、さくらと一緒にお家に居たい」
さくらはまじまじと亜佑美の顔を見詰めた。
「って事は私さくらも行くなと言うの」
亜佑美は、うなずいた。
さくらは一度深呼吸して、
「亜佑美さん、私達はモーニング娘。なのよ。
ツアーで全国をまわって公演をするのが役目なのよ」
亜佑美は首を振って、
「でも行きたくない。とてもそんな気分になれない」
さくらは必死に頭を巡らして考えた。
「気分になれない。って気分が悪いのね!昨夜お風呂で
打った頭が痛いのね!」
すぐに亜佑美が打った後頭部を手で触る。
少し腫れてコブになってるような気がする。
これなら言い訳がきく。すぐに譜久村さんかマネージャーに
連絡して亜佑美さんが、昨夜お風呂で転んで頭を打ったので
とてもパフォーマンスが出来ないと言えば許してくれるはず。
しかし亜佑美は首を振って、頭は痛く無いと言う。
さくらは立ち上がると、
「亜佑美さんも立って!それからこの曲を今ここで
踊って見せて!」
さくらはツアーのセットリストの曲を歌い出した。
「百万回のI LOVE YOUよりもただ一回のKissが良い~♪」
さくらが踊って見せると、亜佑美も踊り出した。
この曲出た頃は先輩達が中心だったけど、みんな卒業して
今自分達が中心になってる。
亜佑美は完璧なパフォーマンスで歌い踊った。
さくらは首を振って止めさせる。今踊ってる場合ではない。
これでは、大事な公演を休む理由にはとてもならない。
さくらは亜佑美に、
「亜佑美さん、そんなに私の事が好きなの?」
亜佑美は強くうなずいた。
「私も亜佑美さんの事が好きよ。とても大好き。
でもね、モーニング娘。も大好きなの。
今日、言い訳のきかない理由で大切な大切な公演を
すっぽかしたら、二人共クビになってしまうの。
そしてそんな事になったら、会社、スタッフ、マネージャーさん
メンバー、そしてモーニング娘。の公演を楽しみしてるファンを、
裏切る事になるの。それだけは絶対に出来ない事なの」
亜佑美は下を向いている。
さくらはその肩に優しく手をやると、
「わかった?お願いだから一緒に仙台に行こうね」
亜佑美は顔を上げてうなずいた。
「ありがとう。本当にありがとう」
さくらはそう言うと亜佑美を抱きしめて顔を寄せると、
その唇に自分の唇を合わせた。
長いキスの後唇が離れると、亜佑美は笑顔になった。
『百万回のI LOVE YOUよりも
ただ一回のKissが良い』
続く。