こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご 二

天神

りんごとの出会いから一年ほど立っていた。

私は西鉄天神駅前でりんごと待ち合わせていた。
目立たないラフな格好の私を見つけて、
りんごは手を振って小走りに近づいてくる。

「イベントは終わったの?」
りんごはうなずいた。

駅の階段を降りて通りを歩きだした。
二人は自然に手を繋いでいた。

歩いていて、十メートルほど後ろをついて来る
女性に気がついた。見た事のある人だった。

その後も2人の後をついて来る。

りんごの手を引くと休日で混雑するバス停の人込みの中に

紛れて、りんごにあの人は誰かと聞いてみる。

「としこよ!」

アイドルグループ、Candy=Candy のリーダーのとしこは
りんごと二人で新曲のイベントで博多に来ていたのだ。

一年前の出会いから一月ほど立った日の真夜中に
寝ているとスマホの着信音に起こされた。午前三時に。
渋々出てみると、りんごだった。

りんごはプライベートで悩んでいる事があって
相談したい事があると言う。

それから延々とりんごの悩み事をじっくり聞いてやり
親身に意見を言って答えてやると、
りんごは納得して「ありがとう。相談してよかった」と
嬉しそうに言ってスマホを切った。
気がつくと朝になっていた。

それからは週に一、二度は電話を掛けて来るようになる。

そしてりんごは、
「来月、九州のライブハウスで公演があるの。
終わったら、会いたいんだけど・・・」

「いいよ」
何も考えずに返事をしてしまった。
後に深みにはまるなんて思ってもいなかった。

それからは、りんごが九州へライブなどで
来る度に、 連絡して会うようになっていた。
ただ会って食事をして話すだけだった。

としこは、以前からりんごが公演やイベントで
九州へ来る度に終わった後に理由を言わずに

抜け出して出掛ける事に
疑惑を感じていたのかもしれない。
それで今回はりんごの後をつける気になったようだ。

駅前で待っているりんごを見張っていたら、
私が現れたわけだ。

としこは二人を見失って立ち止まって辺りを見回していた。

とにかく話を聞きたいと思い、としこに近づいた。
笑顔で声をかけると、としこは驚いたように私を見て、
それから後方のりんごに目をやった。

りんごは後ろめたい所があるらしく下を向いている。

一礼をしてから、行きましょう。と言って歩き出した。
としこは素直に私の後をついて来る。
りんごは少し離れて後をついてくる。

通りを渡り、大丸の裏手を通って川沿いの公園に入った。

りんごをベンチに座らせて待つように言って、
としこを少し離れた場所のベンチにつれて行き、
二人で腰掛けた。

私は逃げも隠れもしない事を示す為に、
名前を名乗り名刺をとしこに渡した。

としこは名刺を見ていたが、顔を上げ、ちらっと向こうの
りんごを見た後、口を開いた。

としこは後をつけた事を謝ってから、

 「りんごと別れてください」
と単刀直入に切り出した。

別れるもなにも、自分はりんごと付き合ってる認識は無かったが、
口には出さないでとしこの話を聞くことにした。

「りんごはアイドルとして今が一番大事な時なんです。
りんごを中心とした私達のグループは長年地道な活動を
続け、少しずつ認められるようになっているんです」

としこはひと息ついてから、
「それがあなたがりんごと付き合ってることが世間に
知られ、スキャンダルとして報道されたら、お終いなんです」

アイドルには、恋愛禁止という理不尽な約束事があることは

テレビや雑誌などで承知している。

そこで、

「私はりんごと付き合ってるつもりは無いのですが」

としこは、不審そうに私を見ると、

「あなたとりんごはこれまで何度も待ち合わせて会い、
今日のように、身を寄せ合い手を繋いで歩いていました。
それを人が見たら、二人は付き合ってると思うでしょうね」

確かにそれを言われると、そう思われても仕方ないかも
しれない。

としこは立ち上がると、私に向かって頭を下げながら、
「お願いします。いきなり別れろなんて言い過ぎかも
しれません。しばらく会うのを止めてもらいたいのです」

と深く頭を下げた。

私も立ち上がった時、
りんごが小走りに近づいて来るのが見えた。

りんごは私に身を寄せて立つと、としこを見据えた。
その様子を見て、としこは唇を噛み締めている。

りんごは、としこに近寄りその腕を取ると、私から
離れた場所に連れて行きなにやら話し出した。

私は二人から少し離れると、としこの言った事を考えた、

私とりんごの関係が世間に知られ、スキャンダルとして扱われば、
りんごはグループを去る事になり、最悪グループは解散になる。
今の所、グループに取って私は迷惑な部外者に過ぎない。
としこの気持ちは十分にわかる事だった。

突然りんごのかん高い声が響いてきてそちらを見ると、
二人が言い争う様子が見えた。

思わず駆け寄ると、

りんごはまるで聞き分けの無い子供のように大声を上げ
としこを責めていた。

二人がもみ合う様になり、その拍子にとしこのバックが下に
落ちて中身がばら撒かれたようになる、

としこは悲しそうに顔をゆがめて泣いていた。

「りんご!止めなさい!」
おもわず強い口調でりんごをたしなめた。

その声にきっとなってりんごは私を見たが、
すぐに駆け出して行った。

としこは後を追おうとしたが、落ちたバックを見て
腰を屈めてバックの中身を拾い集めようとした、
私も屈んで拾うのを手伝った。

としこは立ち上がると何か私に言おうとしたが、

私が早くりんごを追うように指差すと、走り出して行った。

二人が公園を出て行った後、
としこのバックに入っていたある物が気になった、
それはナイフだった。
ただの果物ナイフだったけど、何か気になった。

その日の夜はほとんど眠れず、りんごの事、そしてとしこの事を
考えていたが、やはりここは自分が引くべきだと思った。

翌日の夜に、としこが電話を掛けて来た。
としこは、くどいほど私に謝った。

私は謝らなければいけないのはこちらの方だと言い、
そして昨夜考えた事を伝えた。

「もう、りんごとは会わない事にします」

としこはりんごの私への気持ちを代弁するように話した。

「りんごはあなたに夢中でした。あなたに恋してると
感じました」

私首を振って、
「そんなはずは無いと思う。私とりんごは、
親子ほども年が違うし、会っていてもただりんごの
話を聞いてやってるだけだし、りんごが私を
恋してるなんてとても思えない」

としこはきっぱりと、
「あなたが何を思って何を言おうとも、りんごの気持ちは
私にはよくわかりました。長年一緒に過ごして来たのですから。
あなたに会いに行く前のりんごは、いつもうきうきとまるで
恋人に会いに行くみたいでした。

だから今度の博多のイベントには最初りんごは
別のメンバーと行く予定だったけど私と代えて貰ったんです。
相手の人に会ってりんごと別れてくれと頼むつもりでした」

私はうなずいて、
「わかりました。りんごの事は許してやってください。
すべて私が悪いのです」

「はい。あの後りんごと話し合って、りんごも
納得してくれたみたいです。
りんごの気持ちはよくわかります。
私だって人を好きになった事がありますから」

そう言ってとしこは礼を言うと電話を切った。

その夜はベッドに入って灯りを消した後も、

りんごの事、そしてとしこの事を考えていた。

としこは、りんごがこの私の事を恋してる。と言う。

私は決して自分が好男子だとは思わないが、一応

人並に何人かの女性と付き合った事はある。

大抵の女性は自分と同じくらいの年か年上の女性だった。

りんごのようなはるか年下の女の子に好かれるなんて

経験の無い事で戸惑い気味だった。

 

ライブが終わり会う時、りんごは食事をしながら
よくとしこの話をしてくれた。

出会いの日、りんごがライブをばっくれようと
逃げ出した時の事を後で他のメンバーから聞いて
知った事を話してくれた。


りんごが博多に行く途中の小倉駅で勝手に降りて
姿をくらました時、マネージャーがかんかんに怒って、

りんごは欠席するとファンに伝えようとした時、

リーダーのとしこだけが、りんごは時間までに
必ず来るからと言い張り、ファンに伝えるのを
止めさせたのだと聞いたとりんごは言った。

あの時、もしりんごは欠席するとファンに伝え、
そのまま、りんごが一回目二回目のライブを
欠席していたら確実にりんごは首になっていた。

なんとかりんごを私が車を飛ばして送りつけ
無事に間に合った後、としこは何か言ったのかと
聞くと、りんごは、


「公演が終わった後、としこったら誰もいない所に
連れて行くと、私の首に腕をまわして言ったの。
『今度またばっくれたら、殺す!』って」

それを聞いて私は大笑いした。
りんごは、そんなとしこが大好きだと言った。


としこは、自分のグループを愛していたし、
それ以上にりんごを愛しているのだと思う。

りんごととしこの絆を感じた。
自分に、りんごと別れてくれと頼んだのも、

りんごを愛するあまりの行為だったと思う。

そんなとしこが、私と別れてくれ。と頼んだ事を

知ってりんごはとしこを激しく責めた。

そんな二人の絆を切り裂くような事になった原因の

私はそれにあたいする男なのかと思わざるを得ない。

 

それからまもなく、また電話が掛かってきた。
出ても相手は何も言わなかったが、

りんごだと直感した。

「りんご!俺が悪かった・・・」

「・・・もう会えないの?」

涙声だった。


突然、りんごへの愛おしさがつのってきて、

愕然とする。

今頃になって自分のりんごへの想いに気がつくなんて、

そんな自分の馬鹿さかげんに呆れ返った。
もう会うつもりは無いとはとても言い出せなかった、

やっと、泣いているりんごに、
「しばらく会わない方がいいと思う」

りんごは私の口ぶりに、すぐに別れるわけでは

無いと感じてほっとしたように、

「・・・しばらく会えないのね」

そう言うと電話を切った。

 

続く