こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

りんご 四

博多口

 

としこからの電話に考え事をしていたら、眠ってしまって
いたようで、物音で目が覚めて起き上がる。

キッチンの方から、トントンと何かを刻む音が聞こえてくる。

行ってみると、エプロンを着けて包丁を使うりんごの後ろ姿が

見えた。鍋がコトコトと音を立てる。

しばらくそのりんごの後ろ姿を見とれていた。

目が覚めると、女の子がキッチンに立って朝食を
作ってくれている状況は男冥利に尽きるなと思う。

独身時代が長い事もあり、それと料理も好きだったから
ほとんど自炊する事が多かったので、大体の調味料は
備えていたし、大型の冷蔵庫には野菜や肉、魚も十分に
入っていた。

朝は和食が多かったが、りんごが来るとわかっていれば、
全粒分のパンを買っておくのだったと思う。

りんごにそっと歩み寄って後ろからそっと抱きしめた。

「おはよう」

りんごは首をまわして明を見上げると、

「おはよう」と笑顔で言った。

朝食が出来上がると、テーブルに並べる。

「お口に合うかどうかわからないけど、冷蔵庫に
あるもので出来る物を作ってみたの」

中身が玉ねぎと人参のオムレツ。
オクラと卵の黄身の入った納豆。
ズッキーニと茄子とトマトの冷製サラダ。
ほうれん草の胡麻和え。
わかめと豆腐のお味噌汁。ご飯。

「すごい!美味しそうだね」

食べてみると少し薄味だけど優しい味がして
いかにも女の子の作った料理だと思う。

「本当においしいよ!」

「良かったあ〜」
りんごは嬉しそうな笑顔を浮かべた。

朝食を食べ終えた時、としこから連絡が入り、
すぐに支度をして二人でレクサスに乗って
博多駅まで迎えに行く。

駅ビルにある駐車場に車を入れて、
博多口の改札の出口でとしこを待つ事にする。

明は緊張していた。言わばとしことの約束を破った
形になるだけに少し気持ちが重かった。

明の側に寄り添っているりんごは、落ち着いていた。
少し不安そうな私に対しておだやかな微笑みを浮かべて
励ますように明の腕をとっている。

先に明とりんごの姿をみとめたのはとしこだった。

としこは、体を寄り添い腕を組んでいる2人を見詰めた。

早朝に連絡した時の明の受け答えである程度予想出来たが、
ぴったりと寄り添っている明とりんごを見ると、

この二人は、すでにやっちまったな。と思った。

りんごがとしこに気がついて、大きく手を上げた。

としこが改札口を出て二人に近づいて行くと、
りんごが明から離れてとしこに向かって走り出した。

りんごは足を速めて体をぶつける様にとしこに抱きついた。

明は、抱き合ったまましばらく動かない二人を見詰めた。

あの公園で争っていた二人の姿はどこにも無かった。
またとしことりんごが心を通い合わせる事が出来たのは
本当に良かったと心から思う。

明は駐車しているレクサスに着くと、後部ドアを開けて
としことりんごを座らせる。

車を動かす前に後ろの二人にシートベルトを着用する
ようにと伝えてから明はエンジンを始動させる。

外に降りて都市高速に乗り入れて明のマンションに向かう。

りんごはとしこの手を握りしめて、昨夜の大阪でのライブの
話を喋りはじめる。
としこはうなずきながら聞いていたが、りんごが時折
運転している明の方へ何度か視線をちらりと向けるのを
見ながら決心していた。

もう二人の事を認める事にした。
明とりんごが結ばれた事を許す事にした。

 

続く