こんいろのブログ

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元禄の楓 最終話 三

楓は玲奈を連れて江戸の下町の町外れの丘にある
荒れ果てた古寺に向かっていた。

この寺には住職がひとりだけで住んで居た。
お経もろくに読まないで、日がな飲んだくれた坊主で
檀家にはすべて見放され弟子の坊主達も逃げ去っていた。

そんな寺に楓は眼をつけて、
ある思惑から日頃から住職に食い扶持を与えていた。

寺に着くと思った通り多勢の夜鷹の女達が境内に
集まっていた。
楓が入って来るのを見て夜鷹達が走り寄って来る。

その中のひとり、文乃が楓の所へ走って来る。

「楓姉さん!待っていました。楓姉さんの言付け通り
大火事や大地震などが起こった時は、夜鷹の女達に声を
掛けて集めてこのお寺に集合させました」

「ありがとう文乃。ご苦労様」
文乃は頭が良くて世話焼きで、指導的な存在で
夜鷹の女達から慕われている。

「それでは文乃、今女達は何人ぐらい集まっているの?」
文乃は懐から書付を取り出すと、
「今の所、四十人程集まっています。この分では
後、十人以上は来ると思います」

普段は泊まる所が無い多くの夜鷹達は楓が借りた
いくつかの長屋の狭い部屋に何人も寝泊まりしている。

夏場には野宿をする女達もいたが、こう寒くなると
外で寝たら凍え死んでしまう。
文乃が、
「私達が寝泊まりしていた長屋は地震でつぶれたり
そうで無くても、いつ倒れるかわからないのでとても
入れません。姉さんが確保して置いたこのお寺なら
何とか大丈夫だから本当に助かりました」

楓はうなずきながら、こんなに大勢の女達が
寝泊まりするとなると、とても寝具が足りないし
この後布団屋に注文して置かないといけない。


楓は女達を見まわした。
女達は、大地震と時折襲ってくる余震の恐怖と、
年末で朝夕の冷え込みの寒さもあってブルブルと
震えている者が何人もいる。

「みんな!大地震で本当に怖かったでしょうね。それに
この所の冷え込みで寒いだろうし、そして昨夜から何も
食べて無くひもじいだろうね。すぐに握り飯と温かい
お味噌汁を持って来るからね」

それを聞いて女達は安堵の歓声を上げる。

楓は文乃を呼ぶと、

「文乃。ここへ来る途中で呉服町の飯屋のひさご屋に
握り飯とお味噌汁を用意させているから、人数を連れて
取りに行っておくれ」

飯屋のおかみには、小粒銀のぎっしり入った巾着袋を
渡し、五十人分の握り飯と味噌汁を注文していた。

文乃は顔を輝かせて、大きくうなずいた。
文乃は数人の女達を連れてすぐさま動き出した。

その後、小半時(30分)ほどして文乃達が寺に
戻って来た。

それぞれお茶碗、お椀を入れた風呂敷を下げて持ち、
四台の荷車には握り飯が入った箱や味噌汁の鍋が
いっぱいに積まれている。味噌汁の鍋には冷えないように
毛布が掛けられている。

文乃が皆に、
「さあさあ!みんな待たせたね。食べておくれ!
十分に用意したけど、もし足りなくても追加を
飯屋に注文して置いたからね」

楓は、
「文乃。ご苦労だったね。あなたも早くお食べ」
文乃は笑顔でうなずいて、握り飯にかぶりつき、
まだ暖かい味噌汁をひと口飲んだ。

楓は、玲奈の所へ行って腰を降ろした。
玲奈は食べる手をとめて、
「楓姉さん!姉さんも早く食べなよ!」
と言って味噌汁のお椀と握り飯の入ったお茶碗を
置いてくれる。
握り飯には、二切れの沢庵が添えられている。

玲奈は食べ終えてお椀を置くと、
「ごちそう様。こんな美味しいお握りと
お味噌汁は初めて食べたなぁ」

玲奈は、
「姉さん、うちはこれからお店に行ってくる。
勤めてる居酒屋がどうなってるか心配になったから」

楓は走って行く玲奈を見送った。

続く。

 

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