かみこは、アンジュルムのリーダー若菜の事を
小鳩に熱心に語った。
歌もダンスもアイドルとして完璧なパフォーマンスで
メンバーにも分け隔てなく親身に優しく話を聞き、
全員が若菜を尊敬している事がよくわかる。
特にダンスが全くダメで落ちこぼれているかみこの
事を心配して、一緒にレッスンをして教えてくれて
励ましてくれる若菜を大好きだと言う。
小鳩はそんなかみこの言葉に事務所に電話するのは
止める事にした小鳩は、一度若菜に会ってみたいと
思った。何か若菜に対して嫉妬めいた感情が
湧き上がってくる。
翌日の早朝に、先生と若菜、かみこはスタジオに来て
いた。他のメンバーにはまだ見せられないからだ。
先生は印を付けた場所にかみこを立たせ、すこし
離れた前方に先生と若菜が立ち、かみこに、
「さあ、そこからジャンプして私達二人を飛び越えて」
かみこはすぐに飛ぼうとしたが、二人がじっと見ているので
考え直して、二、三歩下がり軽く助走をつけて飛んだ。
かみこは二人が見上げているのを下に見て、ふわりと
飛んで柔らかく着地した。
先生と若菜は少しの間お互いの顔を見合していたが、
先生が、
「今何メートルぐらい飛んだ？」と若菜に言う。
若菜はかみこが飛んだ位置に立ってから、歩測を
するため歩き出した。
そしてかみこが着地した位置に止まった。
「何メートルぐらいだった？」
「・・・約７ｍ以上飛んでますね」
先生はちょっと首をかしげて、
「すごいわね。女子幅跳びの日本記録はどれくらいかな」
若菜が、
「確か、６ｍ８６だから、軽く超えてます」
日本記録どころか、７m３７の世界記録さえも
達しようかと言う大ジャンプだった。
ジャンプと言うより、空を飛ぶと言う方が適切だった。
先生は唖然としていたが、
「その、では結構上の方まで飛んでたけど、女子高跳びの
日本記録は？」
「女子の日本記録は、１m９６です。かなり上を飛んでた
から２メートル以上は飛んでますね」
世界記録は、2ｍ０９だった。
先生と若菜は同時にかみこを見た。
かみこは二人に見詰められてちょっと恥ずかしそうに
下を向いた。
先生は若菜の耳元で言う、
「この事は誰にも言わないでね。特にマスコミには。
オリンピックの関係者に知れたら勧誘が殺到して
大変な事になるから」
若菜はうなずきながら、
この事は日本記録とかオリンピックとか以前の問題だと
思う。わずか１５歳の女の子にとって。
先生は興奮気味に、
「こんどのツアーのセットリストに、久しぶりに
つんくさんが新曲を提供してくれているのよ。
そのタイトルが「空を飛ぶ」っていうのよ！」
若菜はうなずいた。
「その曲の振り付けを変更して、かみこに文字通り
空を飛ばさせるのよ！なんかわくわくして来たわ」
若菜はたしかに興奮する事だとは思うけど、
若菜は期待よりも不安の方が大きかった。
何か嫌な予感がしてならない。
その若菜の嫌な予感が現実の物になるのだけど。
続く
