こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

天使と悪魔

ツアーに向けて総仕上げの「ゲネプロ」は初日の前日の
午前に公演会場で行う事になった。

この三日間、あまりにも衝撃的な事の連続で振り付けの
先生とリーダーの若菜はふりまわされ寝る間も無いほど
の忙しさだったが、何とかゲネプロまで漕ぎつけた。

その日、先生、若菜、かみこは早朝に会場入りしたのだが、
顔を合わせた時話題は、昨夜の地震の話になった。

なにしろ、震源地は東京の近郊の県で、震度五強と
大きなものだった。東京でも震度五弱で相当に揺れたのだ。

会場に入ると作業員が高い櫓を組んでそれに乗って
舞台の天井のスポットライトの点検をしていた。
昨夜の地震の影響への点検のようだった。

その時だった、昨夜の地震の余震と思われる地震が起こり
ぐらぐらと揺れて来た。
すぐに若菜のスマホから緊急地震速報が音声で鳴り始めた。

いつも何が起こっても沈着冷静な若菜もさすが不安だったのか
その小さな体をかみこに体を寄せてその腕を取った。

かみこはそんな若菜をそっと抱きしめた。
地震はすぐにおさまった。

その後メンバー達が続々と会場に集まり始めた。
新加入のメンバー達は少し緊張してるようだった。

その後メンバーらは、衣装を着けたりメイクをするため
楽屋に下がって行った。

その時、先生、若菜、かみこだけが残って打ち合わせ
をしてる所にマネージャーがやって来て、
ゲネプロは急遽午後に変更すると言う。

若菜がどうしてですかと問うと、

「今日のゲネプロは公開する事になったと、さっき連絡が
入った。会長がそう言ってるそうだとさ」

若菜が、
「そうすると、外部のマスコミの方が大勢観に来る
事になるのですね?」
マネージャーはうなずいた。

すると先生が血相を変えて、
「それは困ります!?今日のゲネプロは一切外部の人を
入れないで非公開にするつもりなのに!」

マネージャーは首を振るばかりなので、先生は会長に
連絡を取る事になり、自分のスマホは置いて来たので
若菜のスマホで会長に電話をする。
幸い会長を捕まえる事が出来て、先生は強い口調で
まくし立てた。

今日のゲネプロはどうしても非公開にする事情を、
興奮気味に大声で話し、それに対し会長も大声で
話すのが聞こえ、ついに怒鳴り声を上げ始める。

双方の怒鳴りあいに、
それを見かねた若菜は、冷静な口調で先生に声をかけた。
「あの、私が出たいのですが、良いですか?」

先生は大きくため息をつくと、スマホを若菜に渡しながら
あのわからずやが!と吐き捨てるように言う。

若菜がスマホを受け取ると、わからずやとはなんだ!
という会長の声が聞こえて来る。

「お電話代わりました」と若菜の冷静な声に会長は気がついて
少しの間二人は黙っていたが、

若菜が、
「お伺いしますが、今現在のアンジュルムのツアーのチケットの

予約状況は、どれくらいなのですか?」

「・・・そうだな。大都市圏ではほぼ満席だけど、
地方の公演では、ガラガラの状態なんだ。全くひどいよ。

ある地方の予約は定員が二千席なのに、予約がわずか
百席しか売れていない!たった百席だよ。
明日から初日なのにだ。

ほとんどの地方公演がそんなもんだと言っていい。
これではとても採算が取れない・・・」

若菜はそれを聞いて息を吞んだ。
思わずスマホの前で頭を下げて、
「本当に申し訳ありません。私達の努力が足りなくて
ご迷惑をおかけしています」

「いやいや!メンバーのせいじゃ無いよ。
皆の努力は十二分に承知している。ご苦労様。
どれもこれも、あの十年前のコロナ禍の影響なんだ」

そのコロナ禍はようやく五年前に収束をみたが、
アイドル業界はどこも大打撃を受けていた。その影響は
現在でも回復していなかった。

「だから今回のアンジュルムのツアーはなにがなんでも
成功させたい。そうしないとハロプロは立ちゆけない。
今日のゲネプロにマスコミ各社を招待してアンジュルム
健在ぶりをアピールしなくてはいけない」

若菜はうなずきながら、
「それでしたら、なおさらゲネプロでは明日の初日まで
非公開にしなくてはいけないのです。

アンジュルムに救世主が現れたのです。必ず彼女は
ハロプロを救ってくれると思います」

「ほお~~!その救世主とは?」
若菜は少しの間考えをまとめると、

「最初は彼女は疫病神に見えたかもしれせん。しかし」

側の先生をちらっと見て、
「先生の指導と彼女の努力によって覚醒したのです。
それも奇跡的な覚醒と言えます。

今後彼女はハロプロの伝説となるでしょう」

先生はうなずきながら小さい声で「ありがとう」と言った。

「今ツアーで彼女のパフォーマンス観たファン、メンバー、
そして関係者の方々は、今後ハロプロ、アイドルと
いうものが存在する限り忘れられなくなるでしょう。

初日の彼女のパフォーマンスを見て、聞いて。多くの
ファンが地元の公演に足を運ぶと思います」

若菜はそう言い切った。

会長は興奮気味に、
「そこまで言うか! よし!わかった。

すぐに公開ゲネプロは取り止める。

ゲネプロでよりも、多数の観客が大歓声を上げる前で
観てこそ大きな話題になるからな。

それで、その救世主のメンバーは誰なんだ?」

「それは新加入で今回のツアーがデビューのメンバー、
福田かみこです」

「ほおおおおーー!?その子だよ!!自分が皆の
反対を押し切って加入させたんだよーー!」

「そうでしたか。会長のご決断のおかげです。
ありがとうございます。ちなみに、会長はどうして
かみこを加入させる気にになったのですか?」

「それはだな・・・会って何というかオーラを感じたんだ」
「どんなオーラなんですか?」

「その~口では言えないようなオーラというか、
人間離れした・・・そう。まるで天使を見ているような
そんな感じがしたんだ。ふわふわしてる」

会長は天使を見たと言う。

「そうですか。天使がハロプロの救世主になるんですね」

若菜は少し考えてから言う。

その言葉は咄嗟に出たもので、若菜はどうしてそんな事を
言ったのか自分でもわからなかった。

「では失礼いたします。メンバー全員も今回のツアーが
成功する事を祈っています。
会長も、天使を加入させたつもりが、

悪魔を加入させた事にならないように祈っていてください」

 

ゲネプロ」が始まった。