かみこは病院から小鳩に連絡をした。
小鳩はロードスターを飛ばして病院にやって来た。
病院のベッドに寝ているかみこを見て小鳩は、
「いったいどんなドジをやらかしたのよ」
かみこは片足を上げて、
「足に30キロのライトが落ちて来て足の骨が
砕けたの」
小鳩は別に驚きもしないで、
「それでかみこのことだから、足の怪我は何分で
治ったの?」
「だいたい20分ぐらいかな」
「その間、人に見られてないでしょうね」
「もちろんよ。すぐにお手洗いの個室に
立てこもって治るまで時間を稼いだの」
それから小鳩は病室の外で待っていた
マネージャーにお礼を言ってから、後は自分が
いるからと帰って貰った。
それから、
「すぐに支度をして帰るわよ。いつまでも病院に
いられないしね」
家に帰ってからかみこは詳しい顛末を話した。
小鳩はしばらく考えていたがため息をついて、
「あの時事務所に電話して辞めさせていたら
こんな事にはならなかったのに」
「ママお願い!今度のツアーにはどうしても
参加したいの。メンバーのためにも、それに
リーダーの若菜のためにも」
「その若菜さんとダンスの先生にはあなたが
ジャンプする所を盛大に見せたのね」
「その~少しばかり高く飛んで見せただけよ。
そうしないとツアーに参加出来なかったし」
小鳩は考えていたが、
「わかったわ。このツアーだけは参加してもいいわ。
ただし、ツアーが終わったらその先を考えるわ」
「ママー!ありがとう!ママ大好きーー!」
かみこは小鳩に飛びついてキスしてくる。
しばらく熱いキスを続けて、ようやく唇が
離れると、
「さあ、疲れたでしょう。明日は早いのだから
お風呂に入って早く寝なさい」
かみこは服を脱ぎながら、
「ねえママも一緒に入ろうよ~」
小鳩はうなずいて、
「わかった。私は少し用事があるから先に入ってて」
かみこが行ってしまうと、小鳩はテーブルに置いた
ままのかみこのスマホを取り上げると、
その着信履歴のある番号に電話してある事を頼んだ。
「ママーー!早く来て~~」とかみこが呼ぶので
小鳩は服を脱いで浴室に向かう。
翌朝、かみこが支度をしているとスマホが鳴って
会長から電話が掛かって来た。
「かみこ、大怪我をしたと聞いたのだけど、
大丈夫なのかい、とても心配してるのだけど」
「はい。大丈夫です。大した怪我ではありません」
「それは良かったが、何でも救急車を呼ぶほどの
大怪我だという話だけど」
「いいえ。大丈夫です。マネージャーさんは
大げさなんです。
私は不死身なんです。まるで天使のように」
会長は笑って、
「そうかそうか。天使っていうのは若菜に
聞いたのだね」
かみこは小鳩の運転するロードスターで
公演会場に着いた。
小鳩は、
「じゃあ私は買物があるから行くわ。終わったら
連絡してね」
そういうと走り去っていった。
かみこはちょっと首をかしげて、
何か釈然としない気もしたが、会場に入って行った。
かみこが楽屋に入って行くと、
「おはよう~」
メンバーが一斉に振り返ってかみこを見た。
すぐに歓声を上げてかみこに駆け寄って取り囲む、
口々にかみこが無事な事を喜び合っている。
同期の紗記と果鈴はかみこに抱きついて来る。
涙脆い果鈴は涙ぐんで良かった良かったと
つぶやいている。
そこへドアが開いて若菜が入って来た。
かみこが居るのを見て、びくっと立ち止まって動かない。
メンバーらは、かみこから離れていく。
かみこと若菜は少し離れたままでお互いを
見詰合っていたが、
若菜は突然走り出して激しくぶつけるように
かみこに強く抱きついて来る。
かみこもそれに応えて抱きしめる。
若菜はかみこの胸に顔をうずめていたが
ようやく顔を上げて、
「夢を見ているみたい・・・」
「言ったでしょ。必ずここへ帰って来るって」
離れていたメンバーらも集まって来て、
二人を囲んで抱きついて来た。
初日の舞台の幕が開いた。