こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

悪魔の細胞

かみこは若菜にお手洗いの個室を開けて貰い、
中に入り便器に腰を降ろした。

その時、救急車が到着したのか大きなサイレンの音が
鳴りやんだ。

若菜は便器に腰かけているかみこを見て、
自我が崩壊した。それまで気丈に張りつめていた
気持ちが崩れその瞳から大粒の涙が吹き出し始めた。

若菜は号泣しながら半狂乱になって泣き叫んだ。
「かみこーーーーーー!!救急車が来たよー!?
すぐに用たしなんか止めて!早く病院に行かないと!!」

自分を救うためにかみこが大怪我をして、せっかくツアーに
参加出来る事になったのに、自分のせいで不可能になった。

若菜は激しく自分を責めていた。

そんな若菜を見てかみこは落ち着いて諭すように
話した。

「私は大丈夫よ。戸を閉めて。
私なんかよりも、リーダーでエースの若菜がいないと
アンジュルムは成り立たないのよ。

それからお手洗いのドアの内側の前に立って誰も
入れないようにして。二十分、いいえ十分でいいわ。
私を一人にして。お願い」

若菜は泣きながら個室の戸を閉めてお手洗いの内の
ドアの前に背中をつけて立った。

外からドンドンと叩かれて中に入れろ!と叫ぶのを
「誰にも中に入れるなと、かみこが言ってるの!」
と泣き叫んだ。

かみこは個室の中で体中が熱くなるのを感じていた。
特に怪我をした足は焼けるほど熱くなっていた。

自分の意志とは関係無く、脳の指令で悪魔の全細胞が
足の損傷を修復するため活発に活動を始めていた。

人間なら完治するのに半年以上かかる重傷をわずか十分で
修復させるため悪魔の細胞が急ピッチで働いていた。

かみこは、
常日頃小鳩からは絶対に人間に悪魔の能力を見られては
いけないと教えられていた。

「普通の人間が、悪魔の能力を見せられたら
かみこの事を化け物を見るような目で見るのに
決まってるの。これだけは絶対に忘れないで」

やがて十分が過ぎて、身体の熱が徐々に収まって
来たのをかんじてかみこは立ち上がった。

個室の戸を開けてかみこは出てきた。

ややびっこを引いていたが、自分の意志で歩いた。
そんなかみこを若菜は信じられないように見た。

かみこは笑顔でうなずくと、
「外に出るわ。肩を貸して」

出ると、救急隊員が待ち構えていた。
全員目を泣き腫らしたメンバー達が回りを囲んでいた。

かみこは担架に横たわると救急隊員に
少しだけ若菜に話させてと言うと、

担架の横にかがんだ若菜の頬に腕を伸ばして触った。
その頬は涙で濡れていた。若菜は、
「私も一緒に病院に行くわ!」

かみこは首を振ると、
「私は大丈夫。あなたの役目はこの後残りのゲネプロ
行う事よ。あなたはアンジュルムのリーダーなのよ。
あなたがしっかりしないでどうするのよ」

かみこは若菜を引き寄せてその濡れた頬にキスして、
「私は明日、必ず帰って来るわ。それまでメンバー達と
待っていてくれる」

若菜は担架で運ばれて行くかみこは見送った。

気がつくと肩に手が置かれて見ると、
ダンスの先生が目を泣き腫らして立っている。

「大変な事になってしまったわね・・・、
若菜は大丈夫?」
若菜はうなずくと、
「わたし、相当酷い顔になってるでしょ」

先生はうなずくと、
「二目と見られない顔になってるわ」

若菜はかすかに笑顔を見せた。
大泣きしたせいで化粧が崩れて頬は真っ黒だった。

控室に戻り鏡を見ると、かみこにキスされた跡が
黒くなった頬にくっきりと残っていた。

化粧をし直して帰って来ると、
若菜は落ち着いていた。元の自分を取り戻していた。

メンバーを集めると言い渡す。

「さあ、夢見る15歳。から始めるよ!
明日は必ずかみこが帰ってくるから、しっかり
最後の仕上げをしないとね」

「空を飛ぶ」になってかみこが飛ぶ場面になって
センターに集合した時、若菜は上を見上げた。

リハの時の遥か上を飛ぶかみこの姿が見えるようだった。
メンバーもつられて上を見る。

すべて終わった後、かみこと一緒に踊る役の果鈴が若菜に

「リーダー、不思議なんです。かみこはいないのに、
ずっとかみこの存在がわかるんです。
かみこが側で呼吸するのを感じるんです」

若菜はそんな果鈴を抱きしめた。

 

つづく。