こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

「虹の彼方に」

「ロマンティック・チュチュ」

夢見る15歳が始まった時、若菜は昨日のゲネプロでの
アクシデントが脳裏をかすめた。

夏祭り 手を繋ぎ 花火を見上げて~

上手側にいた若菜は無意識に下手側にいたかみこの方へ
視線を走らせた。
あの時かみこは、自分を救うため上手の若菜の方へ
猛烈に走って来たのだった。

しかし、かみこが背を向けて下手の袖に歩いて行く
のが見えて、思わず若菜は動揺して歌詞を
間違えそうになる。

行かないでー?!
思わず叫びそうになる。かみこは下手の袖に姿を消した。

すぐに気がついた。幕が開く前にダンスの先生から
夢見る15歳の途中からかみこは抜ける。と言われたのを
思い出した。

それは衣装をかみこだけが着かえるためだった。

「空を飛ぶ」が始まった。
軽快な夢見る15歳から一転して最初はスローな
テンポの曲になる。

空を飛びたい。あの虹の彼方へ飛んで行きたい。と
願う女の子の想いが歌われる。

歌いながらメンバーは一人ずつ徐々に、徐々に、
センターステージへ集まって行く。

最後に若菜がセンターステージへ歩き出した時、
上手からかみこが姿を現した。

グリーンのミニスカートの衣装のメンバー達に
対してかみこは純白の、バレリーナのような
足首までのふんわりとした衣装だった。

その衣装はバレエの専門店のチャコットで先生が

買い求めた『ロマンティック・チュチュ』という

衣装だった。

対して『クラシック・チュチュ』というのは、

短くて円盤形で水平にバレリーナの腰に着ける衣装で、

白鳥の湖」で白鳥役のバレリーナが着ける衣装だった。

メンバー全員がセンターに集まった時
かみこはゆっくりと助走を始め、そして、

ふわりと飛んだ。

最初はライトの光線は外れ、かみこは影になって
いたが頂点に達した時、

スポットライトが飛んで行くかみこに集中して、

ロマンティック・チュチュの衣装で両手両脚を極限まで

一直線に開いて、立ったままのメンバーの遥か上を飛んで

行く姿がバックモニターにくっきりと映し出された。

 

若菜が首を極限まで捻じ曲げて、遥か上空を飛ぶ
かみこを見上げた。メンバー全員もそれに倣う。

かみこはメンバーの頭の遥か上を飛び越えて、
ふわりと着地した。

それを袖で見ていた先生は全身が震えるのを感じた。

ゲネプロの前のリハで飛んだ七メートルの距離とは、
桁違いの約十数メートルほどの距離まで達していた。

高さもリハの二メートルを遥かに超える四メートル以上の
上空まで飛んでいた。

一瞬、会場内は静まり返ったが、すぐに
割れんばかりの大歓声に包まれた。

初日の幕が下りた直後のネットニュースには、

アンジュルムのかみこ。つんく作詞作曲の新曲
『空を飛ぶ』で文字通り空を飛ぶーーー!!!」
と、大々的に報道された。

翌日の報道各紙の記事には、かみこが空を飛ぶ写真は、
突然の事でもあり何も知らされていなかったので、
各紙ともほとんど写されていなかった。

しかしただ一紙のスポーツ新聞だけがその瞬間を
カメラに捉えていた。

その写真にはステージの遥か上を飛ぶかみこを、
下から撮ったので、影になった姿で写っていた。

それは信じられないほどの高さだった。

そらからは、アンジュルムの行く地方公演には
チケットの予約が殺到し、各地の当日の会場には
当日券を求める長い列が延々と出来ていた。

そのお目当てはただひとつ、かみこの空を飛ぶ

パフォーマンスを見たいがためにだった。


アンジュルムライブツアーの最後の公演になる
日本武道館公演を数日後に控えていたある日だった。

かみこは事務所の会長の部屋を出て廊下を歩いて
いた時だった。後ろから足音がして振り返ろうと
した時、後ろから誰かが抱きついて来た。

見ると、若菜だった。
若菜は力の限り抱きつきながら、

「行かないでー!あなたを失いたくない!」