萌

出会い。

沙由はイベントで北海道に来ていて電車に乗って東京へ
帰るため空港へ向かうところだった。
すると隣の車両から女の子を連れた女性がやって来て

沙由の隣に腰かけた。子供は四、五歳ぐらいのだった。
女性は沙由と同じくらいの年齢みたいで、
その子の母親みたい。

一緒のその女の子はとても可愛くて沙由の隣に座った。
それが気になってそわそわと落ち着かない。
つい、いけないとは思いながら、ちらちらとその子を
見てしまう。

それに母親が気がついたようで沙由をうかがっている。
思わず眼をつむって顔をそむけてしまう。

それでもその子が気になり、そわそわと落ち着かない沙由、
それでもその子が気になり、またちらっと見てしまったら、
その子は沙由をじっと見上げていて、視線が合ってしまう。

沙由は女の子の子供が大好きなのだけど、なぜか大抵の
女の子から嫌われてしまう。ハロモニQという番組で
メンバーが、一、二歳の女の子を抱くと、キャッキャッ
笑うのに、沙由がその子を抱くと、
ギャーーギャーーア！と号泣して泣き叫ぶのだ。

やはり子供はよこしまな考えの人を敏感に
感じて泣き叫ぶようなのだ。

心臓が高鳴り立ち上がろうした時、その子は
母親の方へ身体を寄せて何かささやいている。

沙由は顔が熱くなるのを感じ、絶対変な人だと思われたに
違いないと腰を浮かして席を立とうした時、
母親は沙由を見て声を掛けてくる。

「あの～失礼ですが、あなたは道長沙由美さんでは
ありませんか？」

つばが広い大き目の帽子を深くかぶりメガネをかけて

変装していたつもりだったのだけど、どうやら

バレたようだった。

思わず席を立って逃げようとした時、
すかさず女の子は、沙由の服の裾を掴み離さない。

母親は、
「道長さんですよね！私、道長さんの大ファンで今日の
イベントに娘と一緒に観に来たんです。娘の萌も道長さんの
大ファンで、道長さんだと教えてくれたのです。普段は
車なのですが、今日は車検で電車で来て良かったです」

「そうですか・・・」沙由も普段はタクシーなのに、

今日に限って電車にしたのか、
自分でもよくわからない。

萌は満面の笑みで沙由の裾を掴んでいる。
そして天使のような笑顔で沙由の顔をじっと
見上げている。

沙由はこんなに女の子に懐かれるのは初めてなので
戸惑ってしまってどうしていいのかわからない。
もちろん、とても嬉しいのだけど。

母親が、
「道長さんは飛行機で東京へ帰るんですよね。
何時の飛行機ですか？」
時間を言うと、

「そうですか！まだ少し時間がありますね、ご迷惑
でしょうけど、空港のカフェでお話をお聞かせて
頂けないでしょうか？五分か十分だけでも」

沙由は面倒だし断るつもりだったのに、娘の萌が
沙由の手を取って離さないのだ。
その萌が最高に可愛いのだ。この世に天使がいる
ならばこの萌だと思えるくらい可愛い～！

仕方なく沙由は空港内のカフェに入った。
母親は卒業前の話を嬉しそうに話しだす。

そのうちその子、萌ちゃんが沙由の膝に乗って来るのだ。
沙由はその萌ちゃんに完全にKOされてしまう。

そして、搭乗時刻ギリギリの時間にあわてて立ち上がり、

自らスマホのアドレスをメモしたものを母親に渡して

しまった。母親もスマホのアドレスを渡してくる。

沙由と萌の運命の出会いだった。