こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

悪魔のジャンプ

アンジュルムに加入したかみこは、ライブツアーでの
デビューに向けて連日のレッスンを受けていた。

歌やダンスの経験が全く無かったかみこはリハでは
苦労していた。こればっかりは頭脳で覚えた事を
実践するというわけにはいかない。

歌の方は多少はましな方だった。
それはかみこは楽譜を読む事が出来たからだ。
たいていのアイドルの子は楽譜が読めないのが
普通だった。
ダンスパフォーマンスはそうはいかない。
ダンスの先生にレッスンを受けて体で
覚えていくしかない。

「かみこ~そうじゃないの、ダメダメ!
かみこは振りはすぐに覚えるのだけど、
実際に踊るとなると、ちぐはぐなんだなぁ」
ダンスの先生はさかんに首をひねっている。

かみこの同期の二人の子らは、ダンスの経験が
あってすぐに踊れるようになるのだけど、
かみこはどうしても巧く踊れないのだ。

どうやら悪魔の才能にはダンスの能力が
無いのかもしれない。

かみこだけ特別に先生の個人レッスンを
受けているのだけど、どうしても踊れない。

リーダーの若菜も心配して色々アドバイス
してくれるのだけど、どうしても踊れない。

次の日、他のメンバーのダンスのレッスンの
邪魔になるからと、かみこ一人だけ外されて
見物させられる始末だった。

しかし、かみこは泰然として座り込んで他の
メンバーのレッスンを悠然と見ている。

ダンスの先生は他のメンバーのレッスンを自習させて
話があると、かみこを離れた所へ連れてゆく。

先生はため息をつくと、
「あなた、随分と落ち着いてるわね。一人だけダンスを
覚えられない子は焦ったあげくに泣き出す子もいるのに」

かみこはうなずくと、
「そうなんですか。泣いてすむなら苦労はしないですね」

呆れて先生は首を振ると、
「・・・かみこもそろそろ泣くはめになるわよ」

かみこは首をかしげると、
「という事は、これですか?」
そう言って手刀を自分の首にあてた。

「その、まだまだお払い箱にはしないけど、
リハは今週で終わりなのよ。来週からはツアー
が始まるわ。このままじゃかみこはライブツアー
には連れて行けないわ」

「そうですか。ファンの方には何と言うのですか?」

先生は、もう一度大きなため息をつくと、
「まさか、ダンスが踊れないからお留守番させる。
とは言えないでしょうね・・・」

「そうですね」と言ってかみこは笑った。

「笑い事じゃないのよ!かみこは自分の立場を
考えた事があるの!」

かみこは頭を下げると、
「すみません。先生にはご迷惑をおかけしました」
「おかけしました?って辞めるつもりなの?!」

「まだそのつもりはありませんが、辞めろ。と
言われたら考えます」

「あなたみたいな子は初めてね・・・これで
辞められたら、私の立場が無いわ。私の教え方が
悪いと上から言われるに決まってる」

「すみません。まだ辞めたくないです」

先生はうなずきながら、何度目かのため息をついた。
「本当に頑張ってよ。でもかみこが頑張ってるのは
わかるわ。真面目にレッスンを受けてるのに
なぜか踊れないのね・・・かみこは何か得意な
事は無いの?」

「得意な事と言いますと?」

「たとえば何か得意な運動とかは?」

かみこは少し考えて、
「ある事はあります。運動ですよね」
「それよ!なんなの」

「ジャンプです」

「ジャンプ?!では飛んでみせて」
「今ですか?」 
「今すぐによ!」

かみこは振り返ってメンバーの方をちらっと見た。
メンバーは自主練習をしていた。

「見られて困るの?ツアーに参加出来るか、
それとも一人だけで留守番をするか瀬戸際なのよ。
今すぐ飛んでみせて」

「わかりました。飛びます」

かみこは、助走無しで床をトンとスニーカーで軽く蹴ると、
ふわりと浮かび上がった。

足が、先生の頭の上まで達したのでそこで止めて
ふわりと降りて着地した。

先生は、上を向いたまま尻もちをついていた。
眼を大きく見開き、口をぽかんと開けたままだった。

レッスンが終わり、帰り支度をしてると
若菜が声をかけて来た。

「かみこ・・・先生から何か言われたの?」

「もしかしたら私だけお留守番をする事に
なるかもって」

「お留守番!?」

かみこは笑って、
「ウソよ。大丈夫」

「そう。あのね、見えたの」

「見えたって何が?」

「かみこが飛び上がる所を。先生の頭の上まで
ふわ~て浮いてるように見えた・・・」