こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

悪魔の用たし

若菜はかみこの事を常に頭の隅で気遣っていた。
そしていつもかみこを見ていた。その時は目を離して、

「夏祭り 手を繋ぎ 花火を見上げて~♪」
と歌っている時、

突然頭の中で「若菜ー!」とかみこの声が響いた。
見るとかみこが猛烈な速さで近づいて来るのが見えた。

かみこはスポットライトが若菜の真上に落下して
来るのが見えた。意外に遅く見える。
それはかみこが高速で走っていたので遅く感じるのだ。

若菜はかみこを見ると視線が上を向いていたので
上を見たら黒っぽい鉄の塊が自分に迫って来る。

かみこは若菜の側にいた紗記を突き飛ばして
離すと、若菜の体に手が届くと捕まえて振って
床に倒してその上から被さった。

かみこが走り出してから約0・1秒間の出来事だった。。

スポットライトは轟音を上げて舞台に激突した。

一瞬、舞台は異様な静けさに包まれた。
スピーカーも静まり返っている。
若菜はかみこの体の下で我に返った。

かみこの顔を見るときつく眼を閉じ顔を歪めている。

「かみこ・・・」
何とか起き上がろうとする。
ようやく上半身が起こせて、かみこの下半身を見ると
かみこの足はスポットライトの下敷きになっている。

「かみこーーー!?」
若菜はその30キロ以上の重さのスポットライトに手を
掛け持ち上げようとする。
その身長145㎝の小さな体で顔を真っ赤にして
体中の力を振り絞っている。

全力で持ち上げようとすると体中の骨がきしむよう
だったが、かまわず持ち上げるとわずかに上がる。

その時メンバーの一人が来て一緒に持ち上げようと
する。他のメンバーも一人二人と来て何人もの
メンバーが力を合わせて持ち上げると、

スポットライトは完全に持ち上がり、かみこの横に
ゴロリと転がった。

「かみこ!大丈夫!?」

かみこの下敷きになっていた片足は不自然な形に
歪み、出血はしていなかったが紫色に腫れあがっていた。

その時になってマネージャーやスタッフの男性達が
駆け寄って来た。
マネージャーが若菜に

「若菜、大丈夫か!?」
若菜はうなずき、

「私は大丈夫です。でもかみこが・・・」


マネージャーはすぐにスマホを出し、119番へ通報する。

マネージャーはかみこの足の状態をを見て、
「・・・これは、足の骨は砕けているかもしれない」

かみこの同期の果鈴と紗記が大きな声で泣き始めた。
他の先輩メンバー達も泣き出す。

若菜は茫然自失になって何も考えられなかった。

かみこは、若菜を助けるためにかばって上に被さり、
犠牲になって取返しのつかない大怪我を負ってしまった。

ようやくツアーに参加出来る事になって明日の初日には
あの奇跡のパフォーマンスを行うはずだったのに、
若菜のせいですべてぶち壊しになってしまう、

その時、かみこが目を開けている事に気が付いた。

「かみこ!」
かみこが手を伸ばして来たので若菜はその手を強く握り締めた。

かみこが、
「起こして」と言う、
若菜が起こそうとしたが、起き上がれない。
かみこの片足は全く動かないようだった。

スタッフの一人が強く言う、
「動かしたらダメだ!」

かみこは何とか首だけを上げるとマネージャーに
「起こして。お願い」

マネージャーはさっきのスタッフをちらっと見て
「動かしたらダメなんだよ・・・」

かみこはマネージャーの顔をじっと見詰めた。
そして手を伸ばして、
「お願い。起こしなさい」

するとマネージャーはまるで魅入られたように
かみこのを取って起こそうとする。

かみこはゆっくりと起き上がり、握っていた若菜の
手を引いて顔を近づける。
そして耳元で低い声で、

「お願い。お手洗いへ連れて行って」

若菜は何が何だかわからなくなりマネージャーの
顔を見たら、マネージャーは何故か無表情でうつろに
前を見てるだけだった。

仕方なく手を貸してかみこを起こして立たせる。
マネージャーもまるで操られるようにかみこを
立たせる。

かみこは二人に支えられて片足だけで立ったが、
怪我した足はだらりと垂れ下がりまったく
動かせないようだった。

さっきのスタッフが、
「動かしたらいけないよ!」と言うと、
かみこは足は相当に痛いはずなのに、
落ち着いた冷静な声で、

「私は大丈夫。心配しないでいいのよ。
もう何も言わないで」
そう言い渡すとスタッフは何も言えなくなった。

そして若菜の耳元で、
「だから早くお手洗いへ連れて行って」
「でも、もうすぐ救急車が来るし我慢した方が」

かみこは首を振って
「用をたしたいわけでは無いの。誰にも見られない
所へ行きたいだけなの。心配しないで」

その時、遠くで救急車のサイレンの音が聞こえて来る。
「さあ、早く連れて行って」

そしてマネージャーと若菜に支えられて、動かない
足を引きずるようにしてかみこらはお手洗いに入った。

かみこはマネージャーに、
「あなたは出て行って」
そう言われたマネージャーは無表情で出て行った。


つづく