こんいろのブログ

ハロプロ関連の記事が主。後は将棋と猫を少々

擬宝珠

かみこが朝早く、武道館に到着して館内を見に行くと、
誰よりも早く来たつもりだったけど一人だけ先に来ていた。

若菜だった。

しばらくの間、柔軟体操をしている若菜を見ていた。
若菜はかみこに気がついて歩いて来て、

「おはよう。早いのね」
かみこは笑いながら
「おはよう。早いのは若菜の方よ」

若菜はうなずきながら、
「そうね。さすがに今日は早過ぎたかな」
「ツアー最終日の武道館だものね。仕方ないわ」

「これが最後だからね・・・」

若菜はかみこをじっと見詰めた。

アンジュルム武道館公演の入場が始まったが、
チケットがすべて完売していても、当日券を求めるファンが
列をなしていたので、急遽舞台の裏側で角度的にほとんど
ステージが見えない席を売り出したが、すぐに完売した。

定刻の午後18時に開幕して、最近デビューした新ユニットに
よるオープニングアクトが始まる。

舞台裏では主役のアンジュルムメンバーが円陣を組んでいた。

リーダーの若菜が、

「今日が最終日の武道館公演です。しっかりと頑張って、
行きましょう・・・・」
若菜は声がつまってしまって次の言葉が出て来ない、

若菜はこの公演で何かが起こるのを予感していたのかも
しれない。メンバーが若菜を見た。

若菜は振りしぼって、
「若菜ー!」と真っ先に片手を前に出した。
次々にメンバー達が名前を言って片手を若菜の手の上に
重ねて行く。

最後になったかみこが、メンバー全員の手の上に手を
重ねた。

「かみこ!」
かみこはメンバーを見まわすと、

「みんな!今日が最後だよ!頑張ろうね」

歓声を上げたメンバー達は、オープニングアクトを終えて
下がって来る新ユニットと入れ替わりにステージに向かう。

演目は進み、「夢見る15歳」になる。

武道館では少し構成が変わり、この曲が終わると
新加入の三人と若菜によるMCを挟む事になった。

だからかみこは「夢見る15歳」を最後まで歌い切り
衣装を代えずにMCに加わる。

若菜は三人に初のツアーの感想を聞く。
華鈴、紗記は緊張したけど楽しかった。と声を弾ませて
話した。 若菜はかみこに向き直った。

かみこは真っ直ぐに若菜の瞳を見詰めて笑顔で、
「最高に楽しかったです!この素晴らしい時を
いつまでも、いつまでも忘れないです」

そして、かみこは会場のファンに向けて
呼びかけた。

「みなさーん!ありがとうございました」
かみこはそう言って深々と頭を下げた。

「みなさんのおかげでこの最後の武道館公演を
迎えることが出来ました。

本当にありがとうございましたー!」
再度大きく頭を下げる。

若菜はそれが、ファンに向けての別れの言葉の
ような気がして、何かがこみ上げて来たが、
何とか堪えた。

MCが終わると「空を飛ぶ」のイントロが鳴り始めた。

他のメンバーが一斉に登場して来て、紗記と華鈴も
合流する。

かみこは静かに上手へ下がってゆく。衣装を替えるために。
 
メンバーが歌ってる時にかみこは白い衣装に着替えて
現れた。
メンバーは徐々にセンターへ集まり始める。

最後に若菜がセンターへ行こうとした時、肩を
触れられて思わず振り返る。

かみこが、
「私は行くけど、必ずまた若菜の所へ戻って来るよ」

若菜は茫然として、いつもの位置に歩いてゆく
かみこの背中を見詰めた。

そしてクライマックスが訪れた。

かみこは、助走して武道館の33mの天井へ向けて
一直線にジャンプした。

天井へ達しようとした時、一瞬武道館の全ての灯りが
消えてしまう。

サイリウムの海になっている客席の灯り以外は。
そして一秒ほどで灯りがついた時、

かみこの姿は消えていた。

その少し前、大天使アヤカは衛星に乗って武道館の
真上に達すると、ワープして武道館の屋根に降りた。

その屋根の上の擬宝珠に手を掛けてかみこがジャンプ
するのを待ち受けていた。

事前にかみことは念入りに打ち合わせをしていて、
かみこがジャンプした瞬間アヤカは武道館の天井に
ワープすると天井に達していたかみこを、

抱き止めて一瞬でまた武道館の屋根へワープする。

「アヤカー!」
かみことアヤカは屋根で抱き合った。

暗くなり始めた空には、巨大なスーパームーンと化した
満月が輝いている。

そしてそのまま武道館の真上で静止していた衛星へ
ワープして行った。


完結。


エピローグへ続く。