かみこは感情を表さないように小鳩を見詰めると、
「ママ。まだこの車は十分に乗れると思うのだけど」
小鳩もなるべく気持ちを抑え気味に、
「そうなんだけど、でもこの車も十年近く乗ってるし、
オープンカーなのは良いけれど、いつか急な雨で
幌を出すのが遅れて二人ともずぶ濡れになったし
そろそろ買い替え時なのかなって」
かみこは少し考えていたが、
「今日は今からドライブに行くのだし、その事は
帰ってからにしましょうよ」
小鳩はうなづくと、スターターのボタンに指を
伸ばして押した。
するとロードスターは、ブルブル~~~、と止まって
しまう。再度をスターターを押しても、プスン・・・
と止まってエンジンが掛からない。
今まで一度もスタートに失敗する事なんてなかったのに
小鳩は首を捻って何度も何度もスターターを押しても
エンジンは掛からない。何度やっても同じで
掛からない。
さすがに小鳩は頭にきて、
「何よーーーー!?このオンボロ車はーー!!」
と小鳩は車に悪態をつく。
するとかみこが、冷静な声で言う。
「ママ、ロードスターは嫉妬してるのよ」
小鳩はその言葉に驚いてかみこの顔を見て、
「ロードスターが嫉妬って・・・」
以前、ロードスターを買うためにライフを廃車に
しようとした時、ライフのエンジンが掛からなかった
時に、神子が言った時と同じ事を言ったのを
思い出した。
「そうよ。嫉妬してるのよ」
そう言って車に問うように、
「そうでしょう、ロードスターさん?」
その時、いきなりクラクションが大きく、
『プオォンーーーーーン!』と、鳴った」
小鳩は驚いて飛び上がった。
「なっ何よぉーーーーー!?今のは?!」
かみこはすまして言う。
「ほら、返事をしたわ~」
小鳩が唖然とすると、
「この車は神子ママが買ってくれたのよね」
「そそ、そうだけど」
「だからこのロードスターには神子ママの魂が
宿っているのよ」
「神子の魂が宿る・・・嘘!嘘よーーー?!」
「嘘なもんか。ママ、話しかけてみなさい」
小鳩は唾を吞み込みながら、
「あなたなの?神子、本当なの・・・?」
すると、ポォォォ~ン。とクラクションが鳴る。
まるで神子が返事してるように聴こえる。
みるみる、小鳩の目から涙が流れ落ちる。
小鳩はハンドルに抱くようにしがみつくと、
「神子!あなたなのね!愛してるわ・・・」
そんな小鳩にかみこは優しく肩を抱いた。
話し終えた小鳩はハンドルにうづくまって
顔を伏せている。
そんな小鳩の肩にかみこは優しく手をかけた時、
小鳩は、がばっ!と顔を起こしてかみこを睨んだ。
「あなたは、やったのよーーーーー!」
「ええ?!どういう事?」
「あなたは悪魔の子供よ。魔法のひとつやふたつは
わけもないはずよね。だからやったのよ。
ロードスターに魔法をかけてエンジンをかからないように
したり、クラクションを鳴らしたり出来るはずよ」
かみこは厳しい顔で小鳩を見た。
「神子だって同じよ。ライフに魔法をかけてエンジンを
かからないようにするのは、お茶の子さいさいーーよ!」
かみこは腕を組むと、
「お茶の子さいさいね・・・ママ、それではママは、
私と神子ママを疑ってるってわけ?」
続く。